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有期労働契約の無期労働契約への転換ルールについて

有期労働契約の無期労働契約への転換ルールについて

平成29年5月18日6:00p.m.

於 熊本県教育会館

弁護士 石 橋   洋

 

はじめに

・労働契約法(平成19年法律第128号施行)

・労働契約法の一部を改正する法律(平成24年法律第56号)による改正

改正法の趣旨

「有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めに対する不安を解消し、また、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を是正することにより、有期労働契約で働く労働者が安心して働き続けることができる社会を実現するため、有期労働契約の適正なルールとして改正法」(基発0810第2号平成24年8月10日)により第18条から第20条までが追加された。労契法18条⇒無期転換ルール

・「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」(平成26年法律第137号)

「高度な専門知識を有する有期雇用労働者及び定年後引き続いて雇用される有期雇用労働者が、その能力を有効に発揮し、活力ある社会を実現できるよう、これらの有期労働者の特性に応じた……」(基発0318第1号平成27年3月18日)無期転換ルールの特例が定められた。

・「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律

(平成25年法律第99号)

 

1 無期転換ルールを定めた労契法18条の趣旨

労契法18条は、有期契約が5年を超えて反復更新された場合には、有期契約労働者に無期労働契約転換申込権を付与することにより、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図るものである。

 

2 無期転換申込権

⑴ 無期転換申込権の発生要件

① 同一の使用者との間で2回以上の有期労働契約、すなわち1回以上の更新が行われていること

② 通算契約期間が5年を超えること

③ 無期転換申し込みをしたこと

ア 要件①について

・「同一の使用者」とは、労働契約上の使用者である。労契法2条2項

・「一度も更新されていないときは」①の要件を満たさないことになる。

・無期転換の申込みは、具体的に「誰に」するのか? 所属上司か?(後記③第1文との関係)

 

イ 要件②について

・通算期間が5年を超えることであるので、たとえば1年の契約期間を4回更新し

て満5年に達したとしても、申込権は発生しない。

 

ウ ①と②について

・「労基法14条1項の規定により一定の事業の完了に必要な期間を定めるものと

して締結が認められている契約期間が5年を超える有期労働契約が締結されている場合」は上記①と②の要件を満たさない。(施行通達第5の4⑵ウ)。以下同じ)

 

⑵ 無期転換申込権の行使時期と存続期間

① 無期転換申込権の行使時期と存続期間は、「当該契約期間中に通算契約期間が5年を超えることとなる有期労働契約の初日から当該有期労働契約の契約期間が満了する日までの間」(4⑵エ)である。

② 無期転換申込権は、有期労働契約を更新し、その発生要件を満たす場合には、繰り返し発生することとなる。(4⑵エ)

③ 無期転換申込の方法は、要式行為ではなく、転換申込の意思が使用者に到達することである。事実上の形成権も行使であること、そして無期労働契約への転換を望まない労働者がいることも考えられることから、申込の意思は、明示的になされる必要があると解される。しかし、申込みの存否の争いは想定されるので、④のような文書、あるいは無期労働契約転換申込書とその受理通知書を参照(Cf.6頁①&9頁)。

④ 申し込むべき内容は、「現在の期間の定めのある労働契約は、平成30年3月31日(土))で終了しますので、同日の翌日である平成30年4月1日(日)付けで、貴社との間で期間の定めのない労働契約を締結することを申し込みます。」ということになろう。

 

⑶ 無期転換申込権の放棄は可能か?

ア 無期転換申込権の事前の放棄について、多数説や施行通達は、無期転換申込権を行使しないことを更新の条件とするなど、無期転換申込権を放棄させる条項は、18条の趣旨を没却するものとして公序に反し、無効である(4⑵オ)、とする。

イ これに対して、無期転換申込権の事前の放棄について、①合理的な理由があること、②自由な意思に基づくこと、を要件として認める見解がある(菅野和夫『労働法(第11版補正版)』(弘文堂、2017年)317頁、岩村ほか『鼎談2012年労働契約法改正』ジュリ1448号18頁以下(荒木発言))。

ウ 無期転換申込権発生後については、労働者の「自由な意思に基づくものであると認めるに足る合理的な理由が客観的に存在していたものということができる」(シンガー・ソーイング・メーソン事件・最二小判昭48.1.19最高裁判所民事判例集27巻1号27頁。退職金の不利益変更についての同意に係る具体的な考慮要素については、山梨県民信用組合事件・最二小判平成28.2.19最高裁判所民事判例集70巻2号123頁)により判断されることとなる。

 

3 みなし承諾(法的効果1)

無期労働契約への転換強制

労働者が無期労働契約申込権を行使したときは、これに使用者は承諾したものとみなされることにより、無期労働契約が成立することになる。無期労働契約の効力発生は、労働者が現在締結している有期契約の終了の翌日となる(その意味では、転換された無期労働契約の法的性質は、〔就労の〕始期付労働契約となる)。

したがって、現在の有期契約期間中にこの始期付労働契約を解約するには、労契法16条の適用があり、また現在の有期契約を中途解除するには、労契法17条の適用があることになる。(4⑵オ)Cf.6頁②.

 

みなし承諾は、使用者の採用の自由(契約するか否かの自由)への重要な制約となる。

 

4 転換後の労働条件(法的効果2)

「別段の定め」がない場合

・契約期間を除いて、労働条件は有期労働契約の内容であったものと同一となる。

・無期労働契約の正社員就業規則が存在する場合には、その最低基準効の適用。

「別段の定め」がある場合

ア 契約期間以外の労働条件は、労働協約、就業規則、個々の労働契約など「別段の定め」により変更することが可能である。

イ 就業規則との関係(特に不利益変更の場合)Cf.6頁③.

正規社員就業規則を適用する

非正規社員就業規則の適用範囲を無期転換労働者にも広げる。

有期社員から無期社員に転換した者を対象とした就業規則を作成する。

ウ (ア)別段の定めとして、労働者の無期転換申込み以前に、無期転換労働者を適用対象とする就業規則が整備(上記①②③)された場合、その就業規則は労契法7条の要件を満たす限り、同条により就業規則の内容は契約内容となる。

(イ)a労働者の無期転換申込み後に就業規則の整備(上記①②③)がなされた場合、無期転換労働者の労働契約の内容は、有期契約の内容が無期契約の内容となっていることから、(不利益変更の部分については)労契法10条が類推適用され、その要件を満たす限り、労働契約の内容となる。有利な変更については、就業規則の最低基準効(労契法12条)により、労働契約内容となる。

     b 労働者の無期転換申込み後に就業規則の整備(上記①②③)がなされ、その就業規則に対する労働者の個別同意が求められた場合については、難問となる(労契法8条か9条か、また労契法10条の合理性は必要かなど)が、判例法理によれば、上記2ウによることとなる。

 

「別段の定め」=就業規則とは異なる個別的合意の必要性(労契法8条)

5 クーリング期間(通算5年の計算方法)Cf.7頁.

空白期間:

有期労働契約と有期労働契約の間に、空白期間(同一の使用者の下で働いていない期間)が6か月以上であるときは、その空白期間より前の有期労働契約は5年のカウントに含めません。これがクーリング期間です。

直前の有期労働契約の契約期間が1年未満の場合にあっては、その期間の2分の1を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間以上である場合

 

6 無期転換ルールの特例

専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法

特例の主な内容は、特例の対象者について、無期転換申込権発生までの期間(現行5年)を延長することなる。その対象者は、次のとおりである。

ア「5年を超える一定の期間内に完了することが予定されている業務」に就く、高度な専門的知識、技術または経験を有する有期雇用労働者(その賃金が厚生労働省令で定める額(年収1075万円)以上である者に限る)

イ 定年(60歳以上のものに限る)後に引き続き雇用される有期雇用労働者

  特例の効果として、アの者は、一定の期間内に完了することが予定されている業務に就く期間(上限10年)は、無期転換申込権が発生しないこととなる。また、イの者は、定年後引き続き雇用されている期間は、通算契約期間に算入しないこととされる。

ただし、特例の適用に当たっては、対象労働者の能力を有効に発揮させるという特例の趣旨や対象労働者の保護等といった観点に鑑み、事業主には適切な雇用管理の実施が求められることとなる。

 

大学等及び研究開発法人の研究者、教員等については、無期転換申込権発生までの期間(原則)5年を10年とする特例が設けられている。

 

 

有期労働契約であることによる不合理な労働条件の禁止

有期労働契約であることによる不合理な労働条件の禁止

平成29年8月24日6:00pm

於 熊本県教育会館5階会議室

弁護士 石 橋  洋

はじめに

⑴ 基本的な考え方

ア 有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違(格差)が、合理的か、あるいは不合理かは個々の労働条件(基本給、賞与、各種手当などの賃金だけでなく、福利厚生、教育訓練などが広く対象となる。)の趣旨や性格に照らして個別的に考えていくべきである

イ それぞれの労働条件の趣旨や性格に照らして、前提となる「就業の実態」が、同一であれば同一の待遇(均等待遇)「就業の実態」に違いがあれば、違いに応じた待遇(均衡待遇)とすることが求められる

ウ 判断すべき基準は、「就業の実態」を次のような考慮要素に分解して、それらの要素を総合的に考慮して判断する必要がある。考慮要素:労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「人材活用の仕組み」ともいう。)、職業能力などの実態(例えば、職務の成果、意欲、能力又は経験等)

エ 労働組合との労働協約または過半数代表者との労使協定をどのように判断基準に組み込むか?

オ 定年後、継続雇用される労働者の場合をどのように判断するのか?また、退職一時金、企業年金、公的年金の支給、定年後の継続雇用における給与の減額に対応した公的給付がなされていることを考慮することが法的に許容されるか?

カ 均等待遇、均衡待遇に係る我が国の立法の流れとその規定型式や法的効果の特徴を踏まえた上、平成29年6月16日「同一労働同一賃金に関する法整備について」の建議が厚生労働大臣になされていることも視野に入れる(参照)。

キ 労契法20条は、均等原則も均衡原則も含意したものであるのか?次の国会答弁などをどう理解するか。金子順一厚労省労働基準局長は、平成24年6月19日第180回参議院厚生労働委員会において「職務や人材活用の仕組みとは全く関係しないような処遇┅┅通勤手当┅┅食堂の利用┅┅出張旅費┅┅こういったものにつきましては職務の内容や人材活用の仕組みと直接関連するものではございませんので、有期と無期との間での支給、不支給の差を設けたといたしますと、特段の理由がない限りこれは合理的とは認められないのじゃないかと、こんなふうに考えているところでございます。」と発言している。同旨の、平成24年8月10日労契法一部改正施行通達基発0810 第2号第5の6オ)も参照。

「労働基準法3条、4条のような差別禁止規定は、┅┅その根底には、およそ人はその労働に対し等しく報われなければならないという均等待遇の理念が存在していると解され┅┅言わば、人格の価値を平等と見る市民法の不偏的な原則と考えるべきものである」丸子警報器事件・長野地上田支判平8・3・15労判690号32頁