労働紛争とは

ホーム労働紛争とは

集団的労働紛争と個別労働紛争

労働紛争は、集団的労働紛争と個別労働紛争に分けられます。集団的労働紛争は、労働組合などの労働者の団体と使用者または使用者団体との間に主張の対立がある状態をいいます。個別労働紛争は、個々の労働者と使用者(事業主)との間に労働契約の存否や労働条件などに関する事項について発生した紛争をいいます。近年、集団的労働紛争は、合同労組と使用者との間の団交拒否の事案を除いて、減少しましたが、個々の労働者と使用者との間では発生するパワハラ、いじめ、時間外労働、解雇などをめぐる個別労働紛争は増加の一途をたどっております。
集団的労働紛争
個別労働紛争

労働条件の不利益変更と労働者の同意

⑴ 平成20年3月から労働契約法(平成19年12月5日法律128号)が施行されていますが、労働条件の不利益変更についての法的取扱いをめぐって新たな傾向が生まれつつあります。つまり、労働条件の不利益変更は、集団的に就業規則の不利益変更により行われることが一般でしたし、そうした就業規則の不利益変更法理として最高裁による判例法理も形成され、定着し、この判例法理を足しも引きもせずに確認したのが労働契約法10条であることが国会における質疑でも確認されてきました。それにもかかわらず、就業規則を集団的に不利益変更する場合にも、個々の労働者の同意を得て行う事案に対する裁判例が見られ、労働契約法10条の合理性の要件を満たさない場合にも、個々の労働者の同意を得ていれば、就業規則の不利益変更を有効と判断する裁判例が熊本地方裁判所でも出されています(熊本信用金庫事件・熊本地判平成26年1月24日労働判例1092号62頁)。個々の労働者の同意により就業規則の不利益変更を有効になしうるのかについては、熊本信用金庫事件判決以前に、協愛事件大阪高裁判決(平成22年3月1日労働判例1015号83頁)において、労働契約法9条の「反対解釈として、労働者が個別にでも労働条件の変更について定めた修業規則に同意することによって、労働条件変更が可能となることが導かれる」と判示されており、大きな論議の的になっていました。

⑵ ここには、二つの問題が含まれています。一つは、そもそも就業規則の不利益変更が労働者の同意を要件としてなしうるのかどうかです。もう一つは、仮に労働者の同意を要件として就業規則の不利経変更をなしうるとして、どのように労働者の「同意」の認定をするのかです。現在の労働法学におけるホット・イシューの一つとなっています。この2点について論議しなければならない事柄は多いのですが、ここでは、ひとまずこの2つの問題に関連して出された最高裁判決を引用して話をまとめておくことにしましょう。それは、山梨県民信用組合事件判決(最二小判平成28年2月19日労働判例1136号)です。

⑶ 「労働契約の内容である労働条件は,労働者と使用者との個別の合意によって変更することができるものであり,このことは,就業規則に定められている労働条件を労働者の不利益に変更する場合であっても,その合意に際して就業規則の変更が必要とされることを除き,異なるものではないと解される(労働契約法8条,9条本文参照)。もっとも,使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても,労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており,自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば,当該行為をもって直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当でなく,当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである。そうすると,就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されるべきものと解するのが相当である(最高裁昭和44年(オ)第1073号同48年1月19日第二小法廷判決・民集27巻1号27頁,最高裁昭和63年(オ)第4号平成2年11月26日第二小法廷判決・民集44巻8号1085頁等参照)。」

使用者の誠実団交義務とその義務違反の判断基準

詫間港運株式会社事件判決(http://web.churoi.go.jp/mei/m11351.html、高松地判平成27.12.28)は、⑴使用者の団体交渉における誠実交渉義務の内容と⑵その義務違反の判断基準についての一般論を判示しており、参考になります。

⑴「憲法28条は,団体交渉を行うことを労働者の権利として保障しており,これを受けて労働組合法7条2 号は,使用者が,団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことを不当労働行為として禁止しているが,同号は,労使間の円滑な団体交渉の樹立を目的として規定されたものと解されるから,使用者は,単に労働者の代表者との団体交渉に応じれば足りるのではなく,使用者には,自己の主張を相手方が理解し,納得することを目指して,見解の対立を可能な限り解消させることに努め,労働者の代表者と誠実に団体交渉する義務があり,使用者が上記義務を尽くさない場合には,そのような団体交渉態度が,団体交渉の拒否として同号の不当労働行為に当たると解される。」

⑵「そして,使用者が誠実に団体交渉をしたか否かについては,団体交渉の申入れの段階における対応,交渉事項の内容,労働者側の態度等の具体的事情に応じて,団体交渉の場において労使の対立点を可能な限り解消させる努力を行っていたか,そのための方法として,労働組合が検討可能な程度の客観的な資料を提示するなどして,自己の主張の根拠を具体的に説明するなど相手方の納得を得るよう努力したかなどの観点から判断するのが相当である。」

  使用者が、誠実団交義務に違反した場合、労組法7条2号の不当労働行為になることは上記⑴のとおりですが、団交権や団結権侵害として不法行為に基づく損害賠償責任も発生することになります。